逞しい日本人の育成(平成25年)

逞しい日本人の育成

1.孤独で淋しい子どもたち

 4~50年前までの日本の子どもたちは、家庭や地域社会で異年齢集団での群れ遊びが自然に出来ていた。ところが、昭和40年代に入ると日本が徐々に豊かになり、人口が都市に集中する工業化が進み、地域社会が崩壊し始めると共に、少子化核家族化も進んだ。学校教育は知識偏重となり、塾に通う子や習いごとをする子が多く、その上、子どもが楽しめるテレビ番組が多くなって、野外で自由に群れ遊ぶ子が少なくなった。

 それからすでに3~40年が過ぎ、今日では、核家族化や少子化か更に進み、家族の絆や地域社会は一層弱体化して、野外で群れ遊ぶ切磋琢磨の機会と場がないこともあって、孤独で活力のない淋しい子が多くなっている。

 

2.いじめ・非行等の性格的特質

 今日の子どもたちは一人っ子が多く、塾や習い事に通っている上に、テレビゲームやインターネット等のソーシャルメディアの発達によって孤立化している。そのせいもあっていじめが一層陰湿になり、非行や登校拒否、引きこもり等が多くなっている。そのような少年期(6~15歳)の子どもたちの性格的特質は次のようである。

イ、意志欠如性(抑止力の欠如又は弱体化)

口、不安定性(基本的生活習慣の欠如)

ハ、爆発性(短絡的、衝動的行動)

二、自己顕示性(自分勝手)

 困ったことに、少年期に一度このような特質を身につけると、大人になってからではなかなか修正できない。

 

3.活力や自立心の弱い大人

 この半世紀近くもの間、日本の社会状況は激変しており、その時代・時代の子どもたちが成人した今日、社会人になろうとしない、なれない、又親になろうとしない、なれない人が多くなっている。その上、ニートと呼ばれる若者やうつ病になる人、それに生活保護を受ける人も多くなっている。

 少年期に野外で群れ遊ぶ切磋琢磨の鍛練の機会と場が少なかった人の多くが、利己的で意思欠如的、短絡的、衝動的で活力や自立心が弱いとされているが、その性格的特長は次のようである。

イ、孤立化し易い=社会化されていないので他を思いやる心に欠ける。

口、気まぐれで、意思欠如性=不満や不安が多くて安心感が持てない。

ハ、自己顕示性が強い=自分勝手で自省心が弱く、貢任感に欠ける。

二、抑止力が弱い=判断力、応用力、決断力が弱く、幼稚で自制心が未発達。

 このように活力や自立心の弱い大人が多くなっていることは、少年期の教育が進学・進級用の知識偏重になっていたからである。

 群れ遊び等の集団活動をしないで、いじめや非行に走る少年たちの性格的特質と、今日の自立心の弱い大人の性格的特徴が類似していることは、少年期に意欲や自立心の基礎が培われていなかったことになる。

 

4.逞しい日本人を育てる集団活動(鍛練)

 私たちは、群がることによって、視覚や聴覚を介して心の交流を図り、人間関係を上手く作って集団欲を満たしている。群れ遊ぶことによって、仲間を大事に思い、離れたくない、一緒にいたい心情から好き、愛する感情が強くなり、守りたい、守ろうとする意識が芽生える。そうすれば、いじめても程度をわきまえるし、いじめられても自殺するような孤独感や不安感を払拭できる。

 今日の子どもたちの多くは、家族の絆が弱く、地域社会の崩壊によって遊ぶ仲間がいないので、孤独で不安な心情からいじめが陰湿になり、いじめに対抗する忍耐力や自立心が弱く、逞しく生きる力を身につけていない。

 人間は、群れ遊び等の集団活動(鍛練)を通じて、逞しく生きる活力や自立心が育まれるので、少年期において最も重要なことは、同年齢や異年齢を問わず徒党を組んで群れ遊ぶ、鍛練の機会と場に恵まれて心身を培うことである。

 これからの日本が安定・継続するためには、知識・技能教育だけではなく、群れ遊び等の集団活動(鍛練)等を通じて、自立心の強い逞しい日本人を育成することが必要条件である。

           機関誌「野外文化」第211号(平成25年4月19日)巻頭より