世界における日本の役目(平成26年)

世界における日本の役目

1、大義が薄れた日本人

 これまでの半世紀近くもの間、日本は平和で豊かな安定した社会であった。それは、大義を重んじた日本人の努力と工夫の賜物であった。しかし、それが今崩れかけている。

 この頃マスコミをにぎわしているJR北海道みずほ銀行、食材偽装、福島原発の汚染水処理等の問題は、まだ氷山の一角で、日本の戦後教育のつけが、大きな社会不信として潜在している。

 これらの問題点は、戦後のアメリカ的民主教育によって育った、利己的な日本人が大義を失って、無責任な事なかれ主義の風潮に染まっていることだ。

 こんな、日本人としての主体性を失った状態では、外交も内政も経済活動もこれまでのようにはうまくいかないし、2020年の東京オリンピック大会に向かって、成熟した日本の生活文化を世界に発信することもできない。

 日本の伝統文化としての信頼や責任のあり方を皆で考えて、大義について青少年期の教育からやり直す必要に迫られている。

 

2.日本人の大義

 かつて東大の総長が、卒業式で語ったことは、“肥った豚より、やせたソクラテスになれ”であった。

 社会が安定・継続するには、教養と素養ある社会人を育成することが重要であるが、アメリカが仕組んだ戦後の教育は、市場経済を重んずる利己的な肥った人を多くすることであった。

 社会人として踏み外してはならない“大義”をなくしては、一時的に繁栄しても、個々の不信感から団結力を失い、やがて社会が内部衰退して長くは続かない。

 今日の日本は、アメリカ的グローバルスタンダードによって、全てが経済活動中心の観念にとらわれて、発展するための知識や技術を身につけた人は多いが、日本の独自性のある知恵や素養のある人が少なくなっている。

 しかし、日本人がより良く生きるには、日本の社会正義としての道徳心・倫理観や日本語がこれからも必要なのである。

 多くの日本人は気づいていないだろうが、世界のどの国と比べても、日本の自然は四季毎に多くの幸をもたらす豊かさと美しさがある。その自然と共に生きてきた日本人は、日本語で深く理解し合い、相手を思いやる心情があり、大義を重んずる信頼社会を営んできた。

 

3.信頼社会の美し国

 世界の多くの国は、多民族・多文化・多宗教で社会的には不安定状態にあるが、日本だけは、社会を統合してきた天皇の存在によって、千数百年以上も国体が安定的に続いている。

 日本人の多くは、目本国がなくなると考えたことも、想像したこともないだろうが、世界の多くの国の人々は、自分の国の存続に不安を感じている。それに、統治者、例えば大統領、首相等が代わることによって、社会的な多くのことが変化したり、主義思想や宗教、言葉等が異なったりすると、お互いに信頼を失いがちの不信社会になる。

 そのような絶えず不安を感じているような国の人々が、日本に来訪して感じることは、自然環境の素晴らしさだけではなく、人心が落ち着いた信頼社会の治安の良さ、それに素養があって心やさしい思いやりのある人々、そしてそのような日本人が住む町や村の平和的な有様なのだ。その信頼社会日本のあり様全てが、まさしく“美し国”なのである。それが、外国人には魅力的な、これからの絶大な観光資源になる。

 しかし、文化的自信を失って物質的な繁栄におぼれている今日の日本人は、“おもてなし”などと言って作為的な型にとらわれて和の心を失いがちだ。それにアメリカ的な価値観に従って小学生から英語をすすめるのは、グローバル化する経済活動によるだけでなく、美し国日本の文化を否定しがちになる。文化戦争に負けては、独立国家として立ち上がる術を失うことにもなる。

 

4.世界に示せ、美し日本

 一億二千数百万もの人が住む日本は自然が豊かで美しいが、何より千年以上も国体が続いているので、人心が落ち着いて安心感があり、お互いの信頼感が強い。そして素養があり、思いやりのある心やさしい人が、アメリカや中国、その他の国に比べて、今でもまだ遥かに多く、世界に誇れる文化国家であり、これからの国際的な観光資源なのだ。

 しかし、残念なことに、日本人の多くが、アメリカのような不信社会の価値観に同調して、経済活動を中心とするグローバル化を主張している。だが、人は安心して、安全に生きるために働いているのであって、営利活動をするために生きているのではない。

 不信社会に暮らす人々からすると、大義が薄れかけている今日の日本でも、まだ心情が正しく、共通した生活文化のある安定した暮らし方が、アメリカ社会等よりもはるかに美し国に思える。

 世界の中で最も安定・継続している統合された日本は、人類の理想に近い発展した信頼社会なので、これからの科学的文明社会に生きる世界の人々に、生活のあり方、生き方、考え方等を、自信を持って伝えていく大きな役目がある。

 その自覚と認識の下に、2020年の東京オリンピック大会が迎えられるよう、日本人の多くが、成熟した“美し日本”を世界に示す、一層の努力・工夫が望まれる。

            機関誌「野外文化」 第213号(平成26年1月20日)巻頭より