少年期に必要な集団化 (平成23年)

少年期に必要な集団化

1.群れ遊ぶ子どもたち

 ここで言う少年期は6~15歳くらいまでだが、前半の6~10歳くらいの子どもは、自然に仲間を求めて群れ遊ぶ。そして、仲間同士で集まっている安心感や存在感などの心理作用による集団化によって、規則・競争・義務などの必要性を体験的に学ぶ。それは、大人としての社会人に成長するための最初の試練である。

 平成22年10月下旬の某新聞発表によると、「仲間同士で固まっていたいか」という質問に、「はい」と答えた小学男子57%、中学男子54%、小学女子48%、中学女子47%であったそうだが、子どもが連れて行動することは、古代からごく普通のことだ。

 また、「仲間外れにされないように話を合わせているか」という問いでは、「はい」と答えた小学男子50%、小学女子53%、中学男子46%、高校男子43%で、いずれも男子が女子より低かったそうだ。

 少年期前半の子どもにとっては、「はい」と答える方がごく自然で、当り前のことである。

 子どもが群れ遊ぶことによってまず身につける社会性は、仲間同士がお互いの空気を読んで分かり合う集団化である。

2.仲間意識が対人関係を培う

 子どもは仲間と群れ遊ぶことによって、仲間意識が向上し、規則・競争・義務などの必要性に見覚め、対人関係のあり方を覚え、言葉や仕草などによる意志伝達方法を身につける。

 また、野外で群れ遊んで切磋琢磨することによって、自然的危機管理能力としての“勘”が養成され、生きる基本的能力も培われる。

 大人になるための通過儀礼的な集団化は、子どもたちに仲間外れになることを恐れさせ、用心深く同調する知恵によって、どこに属しているのか帰属意識を持たせる。

 人は帰属化によって仲間意識や郷土愛などが強くなり、古里のような愛着心が深まる。さもないと居場所やアイデンティィーをなくして安心することができない。

 少年期前半の集団化による仲間意識の向上によって、他を思いやる心や助け合い、協力・協調・親切心などの社会意識が芽生え、仲間を主体的に助け、守る意識が高まる。

 私たち人間は、社会人としての基本的能力である言葉や風習が身につき、そして協力・協調、安全・衛生などの社会性が培われ、自立心が芽生えることによって対人関係がうまくなる。

3.個人化・幼稚化した大人

 少年期前半に群れ遊んで集団化した子どもが、少年期後半(11~15歳)の学習によって、自分は何ものなのかを考えるようになり、自我の覚醒によって独立心が強くなる。

 そして更なる学習によって他との違いに気づき、自由・平等・権利などの人権に目覚めて、他から守られるべき立場を意識することによって、唯我独尊的に個人化する。

 しかし、風俗・習慣や言葉などの社会的あり方を学習し、他と比較することによって、我慢する力である忍耐力・すなわち欲求不満耐性が芽生え、社会的危機管理能力でもある“道徳心”が培われて、よりよい社会人としての大人になる。

 だが、戦後の民主教育を受けた多くの日本人は、少年期前半からいきなり個人化させられ、集団化の経過がなかったこともあって、利己的な幼さを引きずった幼稚化現象が強い。そのため、コミュニケーションがうまくとれなかったり、対人関係が結べなかったり、心の拠り所がなかったり、意欲がもてなかったりして、ニートやフリーターと呼ばれるような人や、巣ごもり的な非社会的な人が多くなった。そして、幼稚化した大人社会が、文字やイラスト、電波などを通じて子どもっぽさを演出し、一層利己的な個人化を促している。

4.個人化の前に集団化を

 戦後日本の教育は、少年期前半に必要な集団化をないがしろにして、いきなり幼稚園や小学1年生から自主性や積極性、個性などの知識偏重による個人化教育の理念か強く、社会で守られる立場の自由・平等・権利を主張し続けてきた。

 そのため、集団化に必要な信頼や協調性、道徳心などが薄れ、社会を守る立場の規則や競争、義務をないがしろにする利己的な人が多くなった。

 社会人としての人間力の要素には、言葉、道徳心、愛、情緒、情操などの心、風習などの生活力や精神力・体力があるが、これらの大半は集団化によって培われる。

 人間は、個人化する前の少年期前半に集団化が促されていないと、人を愛したり、協力し合ったりするよりよい社会人になろうとはしない。発達段階でまず群れ遊ぶことによって集団化された子どもが、その後学習することによって個人化が促されて1人前の大人になれる。

 社会が安定・継続するためには、より多くの人ができるだけ同じ方向に向いて協力し合うことが必要であるが、今日の日本は、皆が自分の都合によって別々の方向を向いている。

 大人は子どものなれの果て、先生は生徒の成り上がりなどと言われてきたが、社会の後継者である青少年の学力同様に人間力をも高めていなければ、私たちの社会の安定・継続は望めない。

            機関誌「野外文化」 第204号(平成23年1月20日)巻頭より