少年期に総合的体力を(平成30年)

少年期に総合的体力を

1.少年期の心身発達段階

 ここでの少年とは、心身の完成期に達していない男女のことで、心身の発達段階によって、6歳から15歳までとする。

 少年期の心身の発達段階としての年間発育量は、次のように考えられている。

 神経の発達は5歳頃から始まり、9、10歳がピークで、14、5歳で完成し、大人とほぼ同じ状態になる。

 身長は、5、6歳から伸び始めて13、4歳がピークで、女子は15歳頃、男子は17歳頃にはほぼ完成するとされている。

 心臓は、九歳頃から肥大し始め、13歳頃がピークで、17歳頃には大人とほぼ同じ状態になるそうだ。

 女性ホルモンの分泌は13歳頃から盛んになり、16、7歳で女らしい肉体になる。男性の筋肉は、13歳頃からつき始め、17歳がピークで20歳頃には完成の期に達するとされている。

 神経の発達は、心の成長ともかかわっているので、精神的能力を身につけるには10歳頃がもっとも大切で、15歳頃までに身につけた価値観や生活態度が人間力の基礎・基本となる。

2.少年期に基礎・基本を

 少年期は心身の発達が大きく、重要な時期なので、6歳から10歳までの前半期と、11歳から15歳までの後半期に分けて考えることが必要。

 前半期に体得すべきことは、安全・衛生などの概念・自立心・防衛体力、身体によいものを食べ、よく遊び、よく眠る習慣など。

 後半期に習得すべきことは、情緒、情操の心、忍耐力、社会性(道徳心)、行動体力など。

 前半期には、まず仲間づくりの基本である集団化の知恵(規則・競争・義務)と勘を身につけ、自分自身を守る力を培う。

 後半期には、集団の中の自分は何者なのかを考える個人化(自由・平等・権利)の知識・技能を身につけ、善悪を社会的に判断できる道徳心を培う。

 体力の基礎・基本は、言葉や活字、視聴覚機器などによって身につけることは難しいので、他と共に群れ遊んだり、自然や生活体験などの体験活動をしたりすることによって、培うことが重要。

3.スポーツと総合的体力

 今では4年に一度、世界的なスポーツの祭典としてのオリンピック大会が開催されているが、スポーツがだんだんと金権化、ビジネス化して熱を帯びている。

 平成30年2月には、韓国の平昌において冬季五輪が開催され、2月25日に無事終了した。日本選手は史上最多の13個もの金銀銅メダルを獲得して関心を高めた。

 日本では、2020年の東京オリンピックを控え、各スポーツの選手養成が活発で、少年前半期から、体力や技術を高めようと専門化しているが、少年前半期には全身を使って獲得する、総合的体力の基礎を培うことが重要。

 少年前半期から各種のスポーツ一点張りになると、10代後半から20代早期に、心身共に行き詰まりがちになり、トップクラスにはなり難い。何より、成人後に心身の発達か弱く、最高の技や体力、精神力を発揮したり、社会的な総合的能力を高めたりすることができない。

 より程度の高いスポーツ選手を養成するには、少年前半期にはいろいろな活動をさせて、総合的体力の基礎を培わせ、少年後半期になって本人が好きな、又は才能が認められるスポーツをさせればよい。

4.一流選手に必要な総合的能力

少年期に歩いたり、走ったり、取っ組み合ったり、他と共に遊んだり、自然や生活体験などの素朴な体験活動をすることが、想像力や活力、向上心など総合的能力の原点であることは、古来周知のことなのだが、今日の親や指導者はそのことを忘れて近視眼的になり、体力・技能を中心とするスポーツ選手養成になりがちである。技と時間の競争になっているスポーツに、少年前半期から専門的に親しませると、競技体力や技能は培われても、人間としての総合的能力は培われない。

 一流選手にとって重要な総合的能力の基礎は、少年期に長い距離を歩いたり(かち歩き)、走ったり、他と共に行う鍛錬や訓練など、多種多様な全身活動を通じて培われる。

 より勝れた選手になるには、体力や技能だけではなく、他を見習うこと、学ぶことによって上達する意義や楽しさを知り、道徳心、健康管理などの自己管理能力や精神力を高めることが必要。

 スポーツは、技と時間の競争だが、少年期に基礎体力を培い、他人よりもまずは自分に克つ克己心、精神力、そして、他を思いやる社会性、道徳心などの総合的能力が、感覚的、理論的に培われていないと、世界に通じる一流の選手にはなれない。

            機関誌「野外文化」第225号(平成30年4月20日)巻頭より