青少年教育の起こり(平成9年)

青少年教育の起こり

1.強い女性と弱い男性の社会

 動物の多くは母系社会で、私たち人類も、放置すれば自然に母系的社会になる。

 本性的女性の特徴は、男性よりも生命力や順応性が高く、非活動的で物事に対する反応のスイッチかオンとオフに切り替わり難く、行動が単一的、継続的で安定指向である。本性的男性は、活動的でスイッチがオンとオフに切り替わり易く、行動が多面的で冒険指向である。しかも、男性の活動力は、女性の存在によって保たれており、男女が3対1の割合であれば、男性の活力は維持され易いとされている。

 本来、男性は女性の周囲に居て、女性の要求に従って行動する性癖のある動物である。だから、生物的には女性の方がはるかに強い。

 幼少年期を母と共に暮らす子供たちは、母親からあらゆることを学び、刷り込み現象的に文化が伝承される。

 腕力的には強く、活動的で外に出がちな男性が、文字や言葉で教えようといかに努力、工夫しても、母親の影響力には及ばない。子供たちは、母性愛の強い母親の方に馴染み、生活共同体を作りやすいので、社会的にも女性の方が強い。

2.農耕民と遊牧民の文化

 稲作農耕民は、早くから谷間や山麓の清水の豊かな地域に定住し、厭地性の少ない稲を栽培する生活形態に馴染んできた。そのため、非活動的、安定型指向の女性か社会的影響力を強め、母系社会的な文化を培い、発展させた。

 自然の厳しい地域で生活する遊牧民や狩猟採集民は、季節や獲物を追いかける生活形態を取らざるを得なかったので、活動的で冒険型指向の男性が、社会的影響力を強め、父系社会的な文化を培い、発展させてきた。

 人類は、古代から民族や部族間の戦争が絶えなかった。特に大陸における遊牧民は、移動が容易であったので、略奪戦争を仕掛けやすかった。彼らは、馬を足とし武器としたので、少人数で定住農耕民社会を蹂躙しがちであった。

 戦闘的な不安定社会における女性の立場は弱く、犠牲になりがちなことから男女関係が常に不安定状態で、遊牧民社会の男性は、女性を積極的に保護する作為的風習(レディーファースト)を培うことになった。

3.男頑張れの社会

 母系社会的な稲作農耕民の男は、遊牧民社会の男よりも気楽に社会生活を営み、穏和で友好的であった。

 しかし、やがて、合理的で活力のある遊牧民社会からの文化的刺激によって、社会の発展と継続を願う人々が、徐々に父系社会へと移行させた。

 文明が発展し、文化か向上するに従って、母性的、近視眼的、安定的な女性が中心になって社会を維持するには、肩の荷が重すぎるようになり、社会的には弱い男性をより強くする必要性が高まった。

 稲作農耕民の父系社会は、生物的、社会的に強い女性と腕力的に強い男性が協力して、安定した社会を発展、継続させるための知恵として、社会的に弱い男性を、家庭教育や社会教育によって、「お前は男だ!頑張れ!」と、社会的により強くした作為的な社会なのである。

4.青少年教育の必要性

 私たちは、生物的“人種”と、文化的な“民族”、そして政治的な“国民”に区別されて社会生活を営んできたのだが、国際化した文明社会では、その区別があまり必要でなくなってくる。しかし、文化的な“民族”だけは、かなり長く残るだろう。

 もし、人が、風俗習慣や言葉などの民族的特徴を身につけていなければ、社会生活を営むには都合か悪く、1人前の社会人になりきることはできない。

 古代から、人類は、子供たちに文化的特徴を持たせる“民族化”の教育をし、子供たちが学習することを義務づけてきたが、それも文明化と共に衰退してきた。

 これまでの世の知恵者たちは、生物的、社会的に弱く、不安と孤独に悩みがちな男性を強くするために、青少年時代に「お前は強いんだ!」の倫理を教え、伝えてきた。それが、家庭教育における“しつけ”の一部になり、地域社会における祭りや年中行事、その他の儀式等を通じて行われた、社会人準備教育としての“青少年教育”の起こりであった。

 遊牧民社会では、12、3才からすぐに大人社会の仲間入りをするが、稲作農耕民社会、特に日本では、15才までの少年、25才までの青年期が世界の中で最もはっきり区別されていた。これは、作為的な父系社会を維持、継続させるための青少年教育の手段として、行われてきたものであった。

 民族化教育や父系社会が弱まれば、社会は自然に不安定になり、中性化する。それでは困ることが多くなるので、「お前は男だ!強いんだ!頑張れ!」と、私たちはこれからも青少年教育が必要なことを叫び続けなければならない。

            機関誌「野外文化」第148号(平成9年6月20日)巻頭より