人づくり意識革命(平成6年)

人づくり意識革命 

1.子育て革命十ヵ条

 人づくりには家族と地域社会の人々が連携を保つことが重要である。人づくりとしての子育てでいう“子”とは、6~15歳までを意味する。

(1)子どもは地域社会の後継者

(2)子どもの仕事は遊び(体験学習)

(3)自然体験は知恵の泉

(4)自由広場のある街づくり

(5)地域社会に特徴ある遊びの伝承

(6)伝統行事の親子又は家族参加

(7)学校は地域社会の付属機関

(8)小学生の競技スポーツは慎重に

(9)暖衣飽食を慎む

(10)第2土曜日は野外で群れ遊ぶ日

2.人づくりの必要性

 子どもは、5歳頃まで家族が家を中心に育て、6歳~15歳頃まで、家族と地域社会の人々が、協力し合って育ててきた。その後は、個人の自主性に任せるのが望ましい。

 親の子育てと、地域社会の後継者としての人づくりが重なる、6歳から15歳までの10年間に、わたくしたちの風習、価値観、母語、感性、思考力などの基礎が培われ、社会人になるための準備がなされる。今日の親や大人は、そのことを忘れがちで、個人性を中心とする知識偏重教育になりがちだ。そのため、子は社会性を育む機会と場が少なく、自閉的で、自己陶酔形の性格を身につけやすくなる。そして、15~6歳になって初めてそのことに気づき、自分と共通性の少ない子に戸惑い・悩み、怒る親が多くなっている。

 子育てと人づくりに大事なことは、個人性と社会性の発達を促すことで、昔も今もその本質は変わっていない。親や地域の人々が、ごく当たり前のことを伝え、行動を共にすることによって人間性や社会性を豊かにすることが必要。もし、子育てや人づくりに高度な知識や技能が必要なら、わたくしたち人類は、ここまで社会的発展を遂げることはできなかったはずである。

3.社会性が乏しくなった日本人

 科学技術が発展し、高度な文明的社会になった今日では、子どもが生まれ育つ環境条件が激しく変化し、これまでのように自然のなりゆきに任せておくと、実体験を伴わない間接情報によって、知識は豊かになるが、思考力や感性、表現能力が弱く、自己陶酔的な性格か強くなる。

 それでは社会の立派な後継者とはなり得ないので、便利になればなるほど、野外文化活動などを通して、ごく当たり前のことを体験的に伝え、生命力や感性を豊かにする必要性が高くなっている。

 子育て革命十ヵ条は、大人なら誰にでもできる容易なことで、人づくりのために今すぐ実行できることであるが、多くの親が知育偏重になっており、学校は子どもを独占しがちで、先生たちは子どもが社会の現実に接することを恐れている。そのため、地域社会の後継者が育ちにくく、社会性の乏しい日本人が多くなっている。

4.社会人の必要条件

 青少年の学力は、知識や技能だけではなく、感性や思考力、表現能力などの相互関係によって構成されるものである。しかも、知識欲は、体験学習によって身につきやすい感性や思考力などによって刺激され、個性は集団の中で培われる。

 わたくしたちの活力や創造力、行動力は、幼少年時代の体験学習によって培われやすいもので、机上の知識によってのみ培われるものではない。しかも、道徳心や規範は理屈ではなく、集団行動の体験によって身につくものだ。

 ここで言う“人づくり”とは、社会が安定・継続するに必要なより良い後継者を育成することで、エリートや特異な人を育てることではない。

 昔も今も変わりない、人づくりとしての社会人準備教育の重要性は、個人的な職業や地位や名誉のためではなく、社会人としての必要条件をより多く満たすことなのだ。

 これからの人づくりは、文明を金銭化するための異才、天才、タレントなどを育てるのではなく、社会性の豊かなよりよい社会人を育成することであり、人間らしく社会生活のできる能力をより豊かにすることなのだ。

 それが人類愛、祖国愛であり、よりよい社会人の心得に通じる必要条件としての、「人づくり意識革命」なのである。

 子育て革命十ヵ条に賛同していただける方は、ただちに仲間づくりなどをして、家庭や地域社会で実践されることを切に望んでいる。

             機関誌「野外文化」第128号(平成6年2月21日)巻頭より