グリーンアドベンチャー・新しい野外文化(昭和50年)

グリーンアドベンチャー・新しい野外文化

 緑の豊かな日本には、昔から山水を友とする風習があったが、いまはすたれがちになっている。しかし、現在でも少し工夫すれば、費用は少なく、簡単に楽しめる自然の諸々がわれわれの周囲にはいくらでもある。自分にとっての自然とは何か、もう一度考えてみることが必要だ。

 

自然の発見

 自分の身近にある樹に、ふと、これは何という名称なのだろうかと疑問を感じた時、いつも接しているはずなのに、こんな樹があったのだろうかと、今更のように考え込んでしまうことが誰にでもある。

 われわれ人間は自然の中で生活している。たとえ大都会の東京の中でも、自然はいたるところでわれわれに語りかけている。ただ、それに気づかないままでいるとき、自分の身近に自然を感じないだけだ。

 東京は砂漠ではない。砂漠なのは、自然と接する方法を知らない人々の心なのだ。われわれは、現代の高等な文明社会の中で、砂漠化した自分の心に気づいて、ふと身近な自然に触れたとき、緑の豊かな自然の神秘さやさまざまな現象に驚きを覚える。

 

うまく利用するために

 自然は常にわれわれの身近にあるのだが、それに気づかず、自らの手で破壊してしまうことがある。自然の中でその恩恵を被りながら生活しているわれわれ人間は、自然をよく理解し、保護し、上手に利用せねばならない。

 しかし、身近にある植物の名称も知らず、すべての草木を同じ緑にみるようでは、「緑を大切にせよ」とか、「自然を愛せよ」といくら声を大にして叫んでも、その意味も自然に対する愛情も実感を伴わないものになる。だから、自然をいっそう愛し、うまく利用してもらうためには、まず身近に生えている植物の名称を知ってもらうことが先決だと思う。

 

小さな冒険のすすめ

 実際、われわれが野山を訪ね歩いて自然に親しもうとするとき、自分の目にする植物の名称を知らないようでは、映画を見たり、写真をみたりしているのとそう変わらない間接的で、抽象的な感情でしかない。そこで、より多くの人々に、本当に自然を友とし、理解し、利用する喜びを知ってもらう一つの方法として、「グリーンアドベンチャー」という植物を観察する大会を開催することにした。

 グリーンアドベンチャーとは、直訳すると「緑の冒険」となるが、緑とは自然という意味に解釈して、未知なるものをひとつずつ発見してゆく「自然の中の小さな冒険」又は「自然の中の思いがけない発見の喜び」という意味に訳する。

 「この樹はなんという名称だろう…」。ふと、そういう疑問にかられたとき、我々は初めて自然を強く意識し、自然を知ろうと思い立つ。それはまるで、大自然の中で小熊がさまざまな体験を繰り返すような驚きと喜びと発見の旅だから。

 

植物の名称を覚えよう

 グリーンアドベンチャー、それは植物の名称を覚え、自然を発見し、うまく利用するための小さな冒険旅行なのである。

 グリーンアドベンチャー、それは日常的な冒険のすすめであり、自然をよりよく理解し、利用してもらうための知恵を得る方法なのである。

 誰でも、どこでも簡単にトライできる。植物の名称に限らず、動物も昆虫も含めて、その名称を知ることは、われわれ人間の住んでいる自然を理解する第一歩なのである。

 まずは自分の身近な家の庭の木、校庭の木、道沿いの木などを観察し、自分の好きな木を1本決めて、”自分の木“として1年間観察してみよう。そうすれば、理屈抜きに変化する自然を発見することができる。

           ZIGZAG(現:野外文化)第23号(昭和50年5月26日)巻頭より