先進国・日本からの発信(平成24年)

先進国・日本からの発信

1.人口増加と資源不足の地球

 私たちが住んでいる青い地球は、宇宙に浮いた球体で、自転と公転を常時繰り返している。その地球上に、2011年11月30日現在、192の国と地域に分かれて70億人が暮らしている。世界人口は1987年には50億人であり、1999年には60億人であったとのことなので、急激な増加率である。

 日本国の人口数は減少しているが、人類はますます増え続け、2050年までには、なんと93億人にもなるそうだ。だからと言って、われわれ人類が宇宙のほかの星へ移住することは、自然環境の違いからなかなか出来ない。

 これからの地球は、人口増加と科学・技術の発達によって、大地は細り、時間と空間が相対的に縮小され、食糧不足が激しくなる。そうなると、食料やエネルギー資源等の確保、領地や領海等の確保による紛争が耐えることなく発生し、われわれの日常生活が一層不安定になり、不満が増す。

 

2.平和で豊かな先進国・日本

 私は、これまでの40数年間に地球上を踏査し、日本の自然的立地条件が、世界のどの国や地域よりも恵まれていることと、どの国よりも画一的に発展して豊かであり、しかも安定していることを知った。

 南北に長い大地が海に囲まれ、自然的要塞に守られてきたような日本国は、大陸の陸続きの国々とは異なって、緑と水が多くて自然の幸に恵まれ、国民的にもそれほど複雑ではない。それに、他民族の侵略を受けることもなく、江戸時代の数百年も前から統合され、権力的な立場の将軍や首相は代わっても、権威的な天皇は古代から継続しているので、比較的安定した社会生活が続いている。

 何より、この半世紀以上も戦争や紛争がなく人心が安定しており、その上、科学・技術立国としての国際的な経済活動が活発で、物質的に大変豊かである。しかも、全国津津浦々にいたるまで画一的に発展しているので不平等感が少ない。その上、小中高等学校の教育制度が発達充実しているので、比較的民主的、合理的な社会が営まれている。

 このような日本は、世界の最先端を進んでいる豊かで平和な、そして安定した先進国なのである。

 

3.社会的遺産としての生活文化

 多くの人が努力、工夫して学んだり働いたりしている。しかし、学んだり、働いたりするために生きているのではない。よりよく生きるために学んだり働いたりしている。

 よりよく生きている精神的な喜びを感じるには、他人とのかかわりや自分の価値観による納得が必要だ。その価値観に最も大きな力を発揮するのが、日常生活のあり方である生活文化だ。しかも、その生活文化の共通性が人間関係や絆、人格までも作っている。

 私たちが日常生活で最も安心・安全に思えるのは、ごくありふれた日常的なことで、「こうしていれば大丈夫」と言う生活の知恵とも言える、心理作用による納得なのだ。

 生活文化は、その地域の自然環境に順応して生きてきた先祖代々の社会的遺産であって、現代人が勝手に作ったり、簡単に排除したり出来るものではない。

 日本人の生活文化は、日本の自然環境に順応して生きてきた先祖たちが、何百、何千年間も改善を繰り返しながら、徐々に培ってきたものなので、それを無視して生活していると、徐々に安心・安全感が薄れ、高齢になるにつれて不安が増してくる。

 今日の日本に自由貿易は必要だし、TPPのようなアメリカ式自由貿易が迫っているが、社会が安定し、人々がよりよく生きられる継続策を忘れて、経済的効率を高めるアメリカ的産業化を追い求める理論に溺れてはいけない。

 

4.日本独自の安定、継続策の発信

 世界一平和で安全な、しかも合理的に発展した豊かな日本を、これからどのように安定、継続させればよいのかを、経済論や国際政治論だけで論じるのではなく、地球上の日本に住む人は誰でも安心して、安全に生活が出来る方法としての、自然条件を十分に生かした日本独自のあり方を立ち上げることが必用だ。

 日本は世界で最もハイレベルの統合された国民国家で、移民による多民族国家アメリカを始め、他の国々が理想としている統合、安定、継続等社会的なことが、気づかない内に実現されている。アメリカンドリームに象徴されるような発展や繁栄策だけでは格差社会になり、不安定になりがちだ。長い歴史のあるこの日本を、ますます国際的になる経済活動のために更にアメリカ化するのは、人類にとってもよりよいあり方とは言えない。

 世界の先進国に住んでいる私たちは、他国のあり方を真似るだけではなく、これからは日本独自のよりよく生きられる安定・継続的なあり方を、自信と誇りを持って世界各国に発信しよう。

          機関誌「野外文化 」第207号(平成24年1月20日)巻頭より