世界一の統合国家・日本(平成22年)

世界一の統合国家・日本

1.豊かな自然と信頼社会

 南北に長い列島国日本は、世界でも珍しい程食糧資源の豊かな四季のある自然環境に恵まれている。

 そのため、日本人の特徴は、季節を追いかけ、征服するよりも、自然なる神の恵みを待ち、それをとって食べたり保存したり、加工する「待ち」と「工夫」の生活文化である。

 古来の日本では、四季の特徴を利用したり応用したりして狩猟・採集・漁労・栽培農業をたくみにとり入れた社会生活を営んでいたので、少々人口が増加しても食糧が確保でき、海辺や川沿い、山裾などに定住して村社会を営むことができた。そして先祖代々知り合った仲間集団で、家族のような共同生活と信頼感による価値観や道徳心が培われ、協調・協力し合う信頼社会が成り立った。

 

2.信頼と絆の社会的保障

 日本人の生活文化は、基本的には生産力の豊かな自然を崇拝する価値観によって培われてきた。その共通の価値観によって人を信頼し、助け合う絆となって、家族愛、郷土愛を促し、社会的な心の保証がなされていた。

 ところが、今日の多くの日本人の価値観は欧米化し、すべてが物やお金中心である。しかも、労働は物を作り出すのではなく、金が金を産む“マネーゲーム”になっている。そして、暴れるマネーを制御する方法を知らない社会的危機に立だされ、不信感にさいなまれている。

 不信的階級社会である欧米の社長の年俸が10億や20億円であり、日本でも日産のゴーン社長やソニーのストリンガー会長の年俸が8億円以上だというのは、価値観が金や物による金銭的報酬でしがないからだ。日本人社長の年俸が欧米と比べて低いというのは、統合された信頼的平等社会の価値観はお金や物だけではなく、信頼や協力等の社会的報酬があるからだ。

 社会が発展するための経済活動に金は大切だが、金もうけや工業化は手段であって、目的である社会の安定・継続には信頼や絆に勝る社会的保障はない。

 

3.安全・安心な統合国家

 世界の大半の国民国家は、多民族、多文化、多宗教の民主主義的議会政治で、今も国家の統合を第1目的としている。

 ところが、世界の中では大変珍しい単一民族国家に近い日本は、戦後、米国式の多文化主義を取り入れたがすでに統合が成立していたし、やがて貧富の差が小さい安定した国民国家にもなった。

 日本は、稲作文化を中心とする社会を営んできたが、種籾を保存し管理する司祭的役目を果たしてきたのが天皇家であり、天皇は、権力よりも権威的存在であった。

 日本は古くから権威と権力の両立する社会で、権力は交替するが、権威の天皇家は今も継続し、稲作文化による安全・安心な統合国家は、天皇を中心としてきた。だから、政治と金による権力が強かろうが弱かろうが、日本国は千数百年も続いている。

 日本の安全・安心は、外交や武力、経済力だけでは守れないし、国際化や地方分権によるものでもない。それは夫婦同姓の家族の絆をしっかり培った信頼社会による、権威を重んずる統合国家としての国民が、共通の生活文化化を持つことによって保たれる。

 

4.人材育成の文化的遺産

 私たちが働くのは、単にお金や物を得るためだけではなく、より良く、より長く、楽しく安心して生きるためであり、私たちが大変な犠牲を払う青少年教育は、よりよい社会人である国民を育成して、社会の安定、継続を計るためだ。

 日本に古くからあった家庭や地域社会の教育力は、信頼社会を維持、継続させるために大変大きな役目を果たしてきた文化的遺産であった。その上、明治時代になって近代的な学校教育が発達、充実して民度を高め、世界に例を見ない程、社会の発展に役立った。しかし、前の敗戦によって自信を失った日本の教育は、単に進学、進級、就職するための個人尊重で、社会の恒久資源(文化的遺産)としての人材育成にはなっていなかった。

 半世紀以上もの間、右肩上がりの発展と豊かさを追い求めてきた今日の日本を、根幹から揺るがせているのは、人材不足による内部衰退である。これからの経渚活動は、ますます国際化、情報化するが、日常生活は決して国際化しない。

 私たち日本人は、世界一平和で豊かな、しかも長寿である統合国家に誇りと自信を持って、国民としてよりよく学び、働き、生きることに喜びを持とう。

            機関誌「野外文化」第203号(平成22年8月30日)巻頭より