日本人に名誉と勇気を(平成11年)

日本人に名誉と勇気を

         お金を失うことは、少し失うことだ 

   名誉を失うことは、多くを失うことだ

   勇気を失うことは、全てを失うことだ

 ゲーテの言葉である。

 人類は、これまで長い間、貧に対する哲学を持ち、飢えに対する文化を培ってきた。しかし、まだ豊かさに対する哲学はなく、飽食に対する文化を培ってはいない。

そのため、人類は貧には強いが、暖衣飽食には弱い。

 私たち日本人は、この半世紀、お金を得るためにがむしゃらに働いてきた。その勇気ある労働行為は、世界から注目され、感動さえ与えてきた。しかし、名誉ある行動をしてきたとは思えない。どちらかといえば、お金を得るためには、少々名誉を失っても仕方ないとすら考える人が多かった。

 その結果、生産効率の悪い農業を見捨て、無機物を合理的に生産する工業化へと邁進した。そして、食料輸入大国となり、工業製品の輸出大国となった。やがて食料を得る労働から、お金を得る労働へと意識改革がなされ、世界の1、2位を競う経済大国となった。

 ところが、お金を得た暖衣飽食の日本人は、生活や価値感の社会目的を失って、何事も金の力に頼るようになり、大変刹那主義的になった。そして、徐々に活力を失い、バブル経済を破綻させ、マネーゲームの虜になって、額に汗する労働を軽視するようになってしまった。

 私たちにとって、今最も大切なことは、自分と自分の社会、民族、祖国を信じ、額に汗して働く勇気を持つことだ。名誉を重んじ、勇気を持って行動することに勝るものはない。

 日本国憲法の基本理念は、世界の平和と人々が仲良く暮らしてゆくことである。しかし、高い理想にロマンを求めすぎては、現実の社会を維持するための努力と工夫、勇気を弱めがちになる。

 私たちは、牙を抜かれた獣が、笑顔で他の動物たちにすり寄っていくことを美化し、理想化しすぎてきた。そのために、2~30年後には、牙を知らない獣が多くなり、己の力を培うための努力や工夫を重ねる勇気を失ってしまうことを知らされた。また、子どもたちに負の遺産を伝え、名誉ある遺産を伝えなければ、社会の後継者は育ち難いことも知った。

 地球の人々が、同じ価値観、同じ言語に統一されることは辛難なことである。人はパンのみでは生きられない。理想と現実の落差を十分に認知した上での勇気ある行動が、社会を安定、継続させるための基本理念である。

 我々の、地球人としての心得の基本は、まず日本国を平和に安定、継続させることである。わが大地、わが祖国日本を支える知恵と勇気を持つことだ。その手段として、お金が必要なのである。円であれ、米ドルであれ、ユーロであれ、国際経済活動にはなくてはならないが、祖国日本を維持するために一番大切なものではない。

 作為的な経済活動は絶えず変動するが、お金の多少によって社会の安定が維持できないようでは、文化国家とはいえない。

 我々は、お金のために名誉や勇気を失ってはいけない。華やかな知識や技術に振り回されて、知恵を無視してもいけない。

 我々は、地球人である前に、ます、日本人としての名誉を取り戻し、社会の安定と継続を促すために、勇気を持って行動することである。その後に必ず知的欲望と活力が湧いてくる。

 まだまだ働くことを忘れていない日本人が、勇気と名誉ある行動をすれば、沈滞気味の経済活動を活気づけるのは容易なことである。

 “わが同胞よ、祖国日本を信じよう われらには愛する人々がいる わが同胞よ、平和な未来を信じよう われらには、元気な子供たちがいる”

           機関誌「野外文化」第158号(平成11年2月19日)巻頭より