自殺率が世界一高い日本(平成22年)

自殺率が世界一高い日本

1.孤独な人が多い日本

 人間が自殺する最も大きな要因は孤独である。孤独は不安や不信、失望感などをかりたて、生きる意欲や存在感を失わせる。

 心身ともに弱い人間は、集団をなして社会生活を営むが、その最小単位が家族である。

 本来の日本は、信頼社会で、家族の絆が強く、助け合い精神や忍耐力があり、我慢強い人が多かったが、この半世紀の間に大きく変化した。

 今日の日本では人々の社会意識が弱く、国際化かどんどん進み、家族の存在価値がどんどん薄らぎ、金銭的価値観による格差が生じ、貧困率が高くなっている。

 そのせいか、世界で最も高い率で、年間3万人以上もの自殺者がいる。それは信頼社会が衰退し、家族が崩壊して、安全、安心が持てず、心の拠所をなくした利己的で孤独な人が多い証でもある。

 

2.家族の崩壊

 一般的な家族とは、同じ家に住む夫婦、親子、兄弟姉妹など、近い血縁の人びとのことである。

 私たち日本人は、家の内と外を区別し、家を“うち”とも呼び、各部屋が襖や障子で仕切られているだけのうちにおいては、個人の区別はなく、家族として一体した存在であった。そのため、同じ家に住む人を“うちの人”と呼び、隔てなき間柄としていた。

 このような家族意識から、親子の絆が強く、親のため、子のため、家族のための犠牲は、当人にとっては最も高い意義とみなされていた。

 ところが、戦後はアメリカナイズされて、家族の絆が、工業化による経済的発展とともに衰退した。

 今日の日本の家は欧米化し、厚い壁や扉で部屋か仕切られ、鍵までついて孤立化している。そして、市場経済中心の社会は、人間を個人の労働者や消費者とみなし、家族は個人の結合と化し、人々は否応なく利己的になって、日本の家族的あり方は崩壊した。

 

3.社会的目標がない教育

 社会で最も重要なのが人である。本来、利己的な動物である人は生後の模倣と教育によって、社会性や人間性の豊かな社会人になる。その内容の程度は別にして、文化的社会人になれないと、利己的で孤独になりがちである。

 人は人とのかかわりによって育てられるのだが、公教育の社会的目標は、言葉、風習、道徳、信頼、生活様式など、共通の生活文化を身につけたよりよい社会人の育成である。

 しかし、この半世紀以上もの間、日本の教育は、個人の能力を開発し、受験用の学力向上中心に行なわれ、社会的目標がはっきりしていなかった。

 その結果、社会人になれない、なろうとしない、自分勝手な人が多くなり、社会を守る立場に必要な規則、競争、義務をいやがり、守られる立場の自由、平等、権利を主張しがちである。今では社会意識が弱く、自信をもてない孤独な人が多く、犯罪が多発するようになった。

 

⒋.犬猫豚までも家族

 この頃の日本のテレビコマーシャルでは、犬が父親になって言葉を話している。それどころか、某新聞紙上では、ペットの犬猫豚までも“家族”ではなく“かぞくの肖像”として紹介されている。

 日本の家族が崩壊し、日本人社会が衰退しているので、犬猫豚などによって心がいやされ、励まされ、助け合いがなされるというのだろうか。日本の父親がだらしないので、雄犬に代役をさせているのだろうか。

 アメリカは、移民による多民族、多文化、多宗教の国で、まだ国家的に統合されていない不安定な不信社会であり、孤独な人が多く、公的にはどの民族にも、どの文化にも、どの宗教にもかたよってはいけない。だから、物や動物、それに自然現象までも擬人化して、テレビコマーシャルや番組その他に利用しがちであり、ペットを家族化しがちである。

 しかし、日本は、世界で最も安定した統合国家であり、単一民族に近いので、社会的目標のある青少年教育によって、人間同志が信頼し合い、家族が絆を深めれば、物や動物を擬人化する必要はない。

            機関誌「野外文化」第201号(平成22年11月20日)巻頭より