日本国騒乱(平成24年)

日本国騒乱

1.自衛(軍)隊が街に出た

 本年(平成24年)6月12日午前10時、小銃にヘルメットという武装したレンジャー部隊が東京の市街地を行進した。レンジャーは少人数で敵地に潜入し、重要拠点の破壊や撹乱工作をする実戦部隊の精鋭隊員だ。街行く人々は、見慣れない光景に驚いたが、日本以外の国ではごく普通のこと。

 人間には個人や集団のエゴがあり、共通の価値観なり道徳心がなかったなら、社会はいつ何時略奪や争乱が起こらないとも限らないので、常に抑止力が必要だ。

 戦後の日本人はもう65年以上も争乱や戦争は起きないものだと思い、誰かが守ってくれるという、守られる立場に安住しているので、持続可能な社会に必要な守る意識が弱い。

 日木の軍隊である自衛隊が街中を武装して行進することは、何も異常なことではないが、今は、日本国の社会状況が不安定になり、秩序が乱れかけているので、一層不安を感じさせる。

 

2.個人化から始まる教育

 日本の戦後のアメリカ的民主教育は、幼稚園や小学1年生から、いきなり自主性・主体性・積極性・個性を欲求し、当たり前としての常識も身につけないまま、自己中心の考え方を金科玉条のごとくしてきた。

 そこには「社会のため」という、他を思いやる心や公共心は弱く、例え親、兄弟でも信じるな、信じられるのは自分だけという非社会的な不信感を増長させ、独善的・利己的にならざるを得ないようにする傾向が強かった。

 子どもは、いつの時代にも大人に近づこうとしてまねをし、迷いながら成人し、自分たちの時代性を形成してゆくものだが、自信を失った戦後の大人は、物質的欲望が強く、社会規範を失って子どもたち以上に迷い、悩んでいたので、見習う目標になろうとせず、自分たちとは違った社会性・人間性を身につけさせようとした。そのため、戦後世代の昭和22年から35年頃までに小学校に入学した人たちはまだよいが、日本が豊かになりかけた36年以後に小学校に人学した人たちは社会化されることが弱く、自由気儘に自己主張し、常識としての社会性や人間性を豊かにすることを知らされないまま、物質的欲望の強い利己的な人間に成長して社会に参画した。

 そうした人々は、社会的規範よりも利己的な欲望が強く、自由・平等・権利を主張することが日常化している。

 

3.天皇なかりせば

 本年6月6日午後3時過ぎ、多臓器不全のため、三笠宮家の寛仁さまが亡くなられた。皇位継承順位6番目で66歳であった。

 第125代の今上天皇は、もう80歳を迎えている。昭和天皇崩御されたと同じように、やがては亡くなられる。天皇という立場の人間が亡くなられるだけなら、皇太子が天皇を継承すればよいだけのことだが、「天皇」という統制機関が崩壊すれば、日本はたちまち争乱状態になるだろう。

 現状の日本国は、大震災や原発問題、経済不況で人心は動揺し、党利党略に走る政治の混乱による統治権の弱退化、家族の絆や扶養義務の減少による孤立化や生活保護受給者(200万人以上)の増加、利己的価値観による犯罪や自殺・無差別殺人の増加、金権主義による詐欺的行為や国際化・財政の破綻等、騒乱状態である。

 それでもまだ日本国は、他の国では見られない統合の象徴、天皇の存在によって見かけは立派に存続している。

 

4.騒乱的な社会現象

 6月6日、東京の日本武道館において、鳴り物入りでAKB48の「選抜総選挙」があった。なんのことかと尋ねてみると、タレント(芸能人)のアイドルグループ(人気者の集団)内での人気投票のことであった。たかがタレント、されどタレントのための大騒動。

 なんでも候補者237人の中から、自分の好きなタレントが出場できるように、対象のCDを2,600円で買うことによって投票権を得るのだそうだ。まさしく衆愚の購買力をマスコミがあおるトリック的なビジネスだ。それに多くの若者がとりこになって熱中している。

 熱中している日本人が多いのは何もタレントにだけでなく、サッカー、野球、ゴルフ等のビジネススポーツや飲んだり食べたりするグルメ、それにまるでアニメ的少女気取りの可愛いファッション等のトリック的ビジネスに操られ、平和ぼけした日本中に物と欲望の洪水が渦巻いている。

 それこそ、ローマ時代の末期的現象の“パンとサーカス”ではないが、社会生活に目標を持つことのできない、主体的な判断力を持たない、人を楽しませるゲームに魅せられて刹那的になり、お金さえあれば何でもできると思う人が多くなり、共同体的な社会意識の弱い人が多くなった日本は、統制力を欠いで、軍隊が街を行進せざるを得ないような騒乱的な社会現象だ。

 そのことに気づけば常識ある社会人なら、社会のよりよい後継者の育成に努力・工夫せざるを得ないだろう。

            機関誌「野外文化」第209号(平成24年8月31日)巻頭より